APECビジネストラベルカードとは?
ビザ手配を減らす制度の仕組みを整理
海外出張のたびに、渡航先ごとのビザ要否を確認し、必要に応じて申請手続きを行う。アジア太平洋地域への出張が継続的に発生する場合、国・地域ごとに異なるルールへの対応が重なり、手配やスケジュール調整に要する工数が増えていきます。
APECビジネストラベルカード(ABTC)は、こうした短期商用渡航に伴うビザ対応や入国手続きを、制度面から整理・簡素化することを目的として設けられました。一定の条件を満たしたビジネス関係者がカードを取得することで、APEC域内の対象国・地域への渡航をよりスムーズに行えるようになります。
本記事では、都度ビザ対応が発生しやすい地域へ出張している方を主な読者として想定し、APECビジネストラベルカードの制度概要、利用できる範囲、出張において把握しておきたいポイントを整理します。申請の可否を判断する前段として、制度を正しく理解するための情報をまとめています。
目次
APECビジネストラベルカード(ABTC)とは何か
ABTC制度の位置づけと目的
APECビジネストラベルカード(ABTC)は、アジア太平洋経済協力(APEC)に参加する国・地域の間で、短期商用渡航を円滑にすることを目的として設けられた制度です。APEC域内を一定の頻度で渡航するビジネス関係者を対象に、各国・地域の政府が自国の申請者に対して交付します。
ABTCを所持している場合、事前に承認を受けた国・地域への短期商用渡航において、原則として査証(ビザ)を取得せずに入国審査を受けることができます。あわせて、多くの空港ではABTC専用または優先レーンが設けられており、入国審査に要する時間を抑えられる点も制度上の特徴です。
APECという枠組みとビジネス渡航の関係
APECは、アジア太平洋地域における経済連携を目的とした国際的な枠組みで、現在21の国・地域が参加しています。このうち、ABTC制度に完全参加しているのは19の国・地域です。これらの国・地域では、事前承認を受けている場合に限り、ABTCを用いた短期商用渡航が認められています。
一方、米国およびカナダはABTC制度の暫定参加メンバーとされており、ABTCによる査証免除は適用されません。ただし、入国審査時に優先レーンを利用できる場合があります。また、ロシアについては、バーチャルABTCによる入国が認められていないなど、国・地域ごとに取り扱いが異なります。
なぜ出張者向けの制度とされているのか
ABTCは、観光や私的な渡航を対象とした制度ではありません。商談、会議、業務連絡、市場調査など、短期間で行われる商用活動を前提としており、就労や長期滞在を認めるものではありません。
制度の背景には、APEC域内におけるビジネス関係者の移動を円滑にし、貿易や投資を促進するという政策的な目的があります。ABTCは、渡航のたびにビザ要否を確認し、必要に応じて申請を行うという対応を前提に、それを制度面から整理する役割を担っています。特に、同一地域への出張が継続的に発生する場合、国・地域ごとの差異への対応を減らせる点が、出張者向けの制度とされる理由の一つです。
出張時のビザとABTCの関係
短期商用渡航におけるビザの考え方
海外出張におけるビザの要否は、渡航先の国・地域、滞在日数、渡航目的によって判断されます。多くの国では、商談や会議、業務連絡といった短期の商用活動については、一定条件のもとでビザ免除が認められていますが、その適用範囲や条件は国ごとに異なります。
そのため、同じ「短期商用渡航」であっても、ある国ではビザ不要、別の国では事前申請が必要となるケースが珍しくありません。出張のたびに最新の要件を確認し、必要に応じて手続きを行うことが前提となっています。
ABTCは、こうした短期商用渡航に関するビザの取り扱いを、APECという枠組みの中で共通化・簡素化するために設けられた制度です。対象国・地域においては、ABTCを所持していること自体が、短期商用目的での渡航資格を事前に確認済みであることを示す位置づけになります。
ABTCによって省略・簡素化される手続き
ABTCを所持している場合、事前に承認を受けた国・地域への短期商用渡航については、原則として個別の査証(ビザ)申請が不要となります。これにより、渡航ごとにビザ要否を確認し、申請書類を準備・提出するといった一連の対応を省略できます。
また、多くの空港ではABTC専用または優先レーンが設けられており、入国審査時の待ち時間を短縮できる点も特徴です。これは、ABTCが事前審査を前提とした制度であるため、入国時の確認項目が整理されていることによります。
ただし、ABTCはすべての手続きを不要にするものではありません。渡航先によっては、入国カードの記入や電子申告が求められる場合もあり、現地の運用に従う必要があります。あくまで、短期商用渡航に関するビザ対応を中心に、手続きを簡素化する制度である点を理解しておくことが重要です。
都度ビザが必要な地域とABTCの効果
アジア太平洋地域への出張では、同一地域内であっても、国・地域ごとにビザの取り扱いが異なります。特に、複数国をまたいで出張する場合や、出張頻度が高い場合には、都度ビザ対応が発生しやすくなります。
ABTCを取得している場合、対象となる国・地域への短期商用渡航については、こうした個別対応を減らすことが可能です。渡航前の確認事項が整理されることで、スケジュール調整や手配に要する工数を抑えやすくなります。
一方で、ABTCが適用されない国・地域も存在します。米国やカナダでは査証免除は認められておらず、ロシアについても特有の制限があります。そのため、ABTCがあればすべての出張でビザ対応が不要になるわけではありません。
ABTCの効果は、APEC域内の短期商用渡航が継続的に発生する場合に、渡航ごとに発生していたビザ要否の確認や申請対応を減らせる点にあります。次章では、ABTCで認められている渡航目的の範囲と、利用できないケースについて整理します。
ABTCでできること・できないこと
利用できる渡航目的の範囲
ABTCが利用できるのは、短期の商用目的による渡航に限られます。具体的には、以下のような活動が想定されています。
商談、会議、打ち合わせへの出席 市場調査、情報収集 契約交渉や投資に関する協議 納品後の確認や技術的な説明(報酬を伴わない範囲)
いずれも、滞在期間が短く、現地で報酬を得ない活動であることが前提です。
この条件を満たす限り、APEC域内の承認国・地域では、個別のビザ取得を行わずに渡航できます。
観光・就労との違い
ABTCは、観光目的や就労目的での滞在には使用できません。
観光、私的旅行 現地企業への雇用、長期滞在 有償の業務提供や役務提供 留学、研修、ワーキングホリデー
これらの目的で渡航する場合は、従来どおり該当するビザや在留資格の取得が必要です。
ABTCはあくまで「短期商用」に限定された制度であり、渡航目的そのものを拡張するものではありません。
誤解されやすいポイント
ABTCについては、次の点が誤解されやすい傾向があります。
「ABTCがあればすべての国に自由に入国できる」わけではない
→ 承認された国・地域のみが対象となります。
米国・カナダはビザ免除の対象ではない
→ 専用(優先)レーンの利用は可能ですが、入国には別途査証や渡航認証が必要です。
滞在可能日数は国・地域ごとに異なる
→ 一律ではなく、各国の入国ルールが適用されます。
ABTCは「万能な渡航許可」ではありませんが、条件に合致する出張が継続的に発生する場合には、渡航前の確認事項を大きく減らせる制度であることがポイントです。
利用対象国・地域と注意点
ABTC制度参加国・地域の考え方
ABTCは、APECに参加している国・地域すべてで同一に利用できる制度ではありません。
ABTC制度に参加し、かつ事前承認を行っている国・地域のみが、ビザ免除や専用レーン利用の対象となります。
2025年時点で、ABTC制度に参加している国・地域は以下のとおりです。
オーストラリア、ブルネイ、チリ、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、台湾、タイ、ベトナム
ただし、ABTCを取得した時点ですべての国・地域が自動的に承認されるわけではなく、 各国・地域ごとに事前審査が行われ、承認された場合のみ利用可能となります。
米国・カナダ・ロシアの扱い
ABTCの利用において、特に注意が必要なのが米国・カナダ・ロシアです。
米国・カナダ
両国はABTC制度への暫定参加国と位置づけられており、入国審査時に専用(優先)レーンを利用することはできますが、ABTCによるビザ免除は認められていません。渡航にあたっては、ESTAやeTA、または査証の取得が別途必要です。
ロシア
現時点では、バーチャルABTCによる入国は認められていません。日本では2024年4月以降、プラスチック型ABTCの新規交付が行われていないため、ロシアへの渡航には原則として査証の取得が必要となります。
なお、特別措置としてバーチャルABTC所持者を対象とした査証発給制度が設けられていますが、利用可否や手続きは渡航前に必ず確認する必要があります。
国・地域ごとの運用差への留意点
ABTCを利用する際は、制度の枠組みだけでなく、各国・地域ごとの運用差にも注意が必要です。
滞在可能日数は国・地域ごとに異なる ABTC専用レーンが設置されていない空港もある 専用レーンの利用が事前承認済みの場合に限られる国・地域がある
ABTCは、渡航手続きを一律に減らす制度ではなく、各国・地域の入国ルールを前提に、その一部を省略できる制度と理解することが重要です。
出張の計画段階では、ABTCの有無だけで判断せず、渡航先ごとの最新の運用状況を確認することが前提となります。
有効期間と運用上のポイント
ABTCの有効期間とパスポートとの関係
ABTCの有効期間は、原則として交付日から5年間とされています。ただし、交付時点で使用しているパスポートの残存有効期間が5年未満の場合、ABTCの有効期限はパスポートの有効期限と同一になります。
そのため、パスポートの有効期間が短い状態でABTCを申請すると、想定よりも短期間でABTCが失効するケースがあります。
ABTCの申請を検討する際は、パスポートの更新時期とあわせて確認しておくことが重要です。
出張計画を立てる際に注意すべき点
ABTCは、有効期間内であっても、渡航の可否を自動的に保証するものではありません。
・ 渡航先国・地域ごとに滞在可能日数が異なる
・ パスポートの残存有効期間に別途条件を設けている国・地域がある
・ 承認済み国・地域が出張先に含まれているかの確認が必要
特に、出張予定日がABTCやパスポートの有効期限に近い場合、入国審査時に追加確認が行われることもあります。出張スケジュールと有効期限を切り離して考えないことが、運用上のポイントとなります。
有効期限切れ・更新時の考え方
ABTCの有効期限が切れた場合、自動更新は行われません。引き続き利用するためには、あらためて申請手続きを行う必要があります。 また、パスポートを更新した場合も、旅券番号の変更に伴う再交付手続きが必要となります。有効期限が残っていても、旧パスポートにひもづいたABTCは使用できません。 出張が継続的に発生する場合は、ABTCとパスポートの有効期限をあらかじめ整理し、更新時期が重ならないよう計画的に管理することが求められます。
バーチャルABTC(VABTC)への移行について
プラスチックカードからの変更点
ABTCは、2024年4月以降、日本ではバーチャルABTC(VABTC)へ完全移行しています。従来のプラスチックカードは新規交付されておらず、現在はスマートデバイス上のアプリで表示する形式が標準となっています。主な変更点は以下のとおりです。
カード実物の携帯が不要 スマートフォン等の専用アプリで表示・管理 各国・地域の承認状況がリアルタイムで反映される
これにより、承認状況の確認や情報更新がオンラインで完結する仕組みに変わりました。
出張者への影響として押さえておきたい点
バーチャル化によって、ABTCの管理方法はシンプルになっていますが、出張者側で意識しておくべき点もあります。
スマートデバイスを携帯していない場合は提示できない バッテリー切れや通信環境に左右される可能性がある 機種変更時はアプリの再設定が必要
従来のカード型と異なり、「表示できる状態」が前提条件となります。出張時には、パスポートと同様に、VABTCを提示できる環境が整っているかを事前に確認しておく必要があります。
現地での提示・確認に関する考え方
入国審査時には、パスポートとあわせてVABTCアプリの画面を提示します。承認済みの国・地域はアプリ上に表示され、審査官はその情報を確認します。
なお、以下の点には注意が必要です。
・ スクリーンショット画像は原則として認められていない
・ オフライン対応の可否は国・地域や運用により異なる
・ 専用レーンの設置有無は空港ごとに異なる
VABTCは制度としては共通ですが、現地での確認方法や運用は一律ではありません。出張先の空港や国・地域の運用状況を踏まえ、過度な簡略化を前提にしないことが重要です。
ABTCを検討する際の判断軸
どのような出張者に向いているか
ABTCは、すべての出張者に必要な制度ではありません。特に適しているのは、APEC域内への短期商用渡航が継続的に発生している出張者です。
具体的には、
・ アジア太平洋地域への出張が年に複数回ある
・ 国・地域が固定されず、複数の渡航先を行き来している
・ 出張のたびにビザ要否の確認や申請対応が発生している
といった状況に当てはまる場合、ABTCのメリットを実感しやすくなります。
一方で、渡航先が限定的で、かつビザ免除国のみの場合は、ABTCの必要性は相対的に低くなります。
導入効果が出やすいケース
ABTCの効果が表れやすいのは、「一度きりの出張」ではなく「繰り返し発生する出張」です。
短期間の商談や打ち合わせが定期的にある 展示会や現地パートナーとの会合が年単位で続いている 出張計画が直前に確定することが多い
このようなケースでは、渡航ごとのビザ対応や入国手続きにかかる確認作業を減らせる点が、出張準備全体の安定化につながります。 反対に、長期滞在や就労を伴う渡航が中心の場合は、ABTCの制度範囲外となるため注意が必要です。
取得を検討する前に整理しておきたい点
ABTCの申請を検討する前に、次の点を整理しておくことが重要です。
・ 主な出張先がABTCの承認対象国・地域に含まれているか
・ 渡航目的が短期商用の範囲に収まっているか
・ 今後数年間の出張頻度が見込まれているか
・ パスポートの有効期間に十分な余裕があるか
これらを整理したうえで初めて、ABTCが適しているかどうかを判断できます。
ABTCは、取得すれば即座にすべての出張が楽になる制度ではありません。一方で、条件が合致する場合には、出張準備に伴う確認事項を確実に減らせる制度でもあります。自身の出張状況と照らし合わせ、必要性を冷静に見極めることが重要です。
まとめ
APECビジネストラベルカード(ABTC)は、APEC域内への短期商用渡航が継続的に発生する出張者にとって、渡航ごとに行っていたビザ要否の確認や申請対応を減らすための制度です。
すべての出張に適用できるわけではなく、渡航目的、対象国・地域、パスポートの有効期間などを前提に、制度の範囲を正しく理解したうえで利用することが求められます。一方で、条件が合致する場合には、出張準備に伴う確認事項を一定程度整理できる点は、制度としての大きな特徴といえます。
ABTCの申請には、提出書類の準備や制度要件の確認など、事前に整理すべき点も多くあります。IACEトラベルでは、APECビジネストラベルカードの申請についてもサポートを行っており、制度の確認から申請手続きまでを含めた案内が可能です。
APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)|IACEトラベル
出張頻度や渡航先を踏まえ、自身の状況にABTCが適しているかを整理する際の参考情報として、本記事を活用いただければと思います。
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